学校<1> 立て札「運動駐車場」〜見慣れぬ道を通って

 学校に歩いて行く。歩いて行く学校で開かれる運動会。しかし被災地では子どもたちがその「当然」であった日常を享受できない状態が続いています。たとえばバスに乗って運動会会場へと向かい、たとえば遠く離れた街で、見慣れぬ通学路をとおって学校へ通っています。
 やや古い情報ですが、文部科学省が昨年10月に校舎の被災・仮設校舎の情報に加え、体育館・グラウンド・理科室・家庭科室などの使用可能状況を発表しています。また先月末には転校(園)した生徒・児童の数が発表されています。当資料によれば、転校(園)をした生徒・児童は25,516人(同一県内での受入れ数を含む)、また岩手、宮城、福島の3県から他の都道府県の学校にうつった生徒・児童は14,263人となっています。



・・・「当然」という概念がすっかりくつがえってしまったのが大震災以後である。家族も家も学校も職場も、あって当然のものが、ある日を境にそうでなくなったという体験をしたことを、大人はともかく子どもたちはどう受けとめているのだろうか?▼毎日朝晩通る大船渡小学校前の周辺に、出勤時「運動会駐車場」という立て札を何度も見たのは、同小学校の校庭が運動会場として複数の学校に使われている現状を物語っている。車で来た父母たちが荷物をまとめて会場に向かう様子、子どもたちを乗せた大型バスが校庭に入る様子などを車窓から眺め、複雑な気持ちになる▼赤白の運動帽をかぶった小学生たちがバスの中でどんな会話をしてきたのかを知りたくなる前に、気の毒が先に立つ。運動会とは自分の学校の校庭で行われるのが当然だが、その学校も今はなく、校庭はがれきの集積場となるか、荒れ果てたまま放置されているのである。このため難を逃れた別の学校に通うから“複式学級”ならぬ“複式学校”となり運動もままならない
▼戦後も“還暦”をとうに過ぎてわが国はすっかり成熟社会となって平和と便利さとを共に享受してきたのだから、すべてが当然と錯覚するのはやむを得ないことである。しかしそんな状況は足元から崩れ去ってしまった▼不便さというものを現実に体験することになった子どもたちが、これから先をどのように考えているのか、不憫さがこみあげてくるが、しかしたくましく育つことはまちがいない。そう確信している・・・

東海新報(2012年6月3日付)コラム「世迷言」より引用
http://www.tohkaishimpo.com/scripts/column.cgi?pflg=2&page=2&snen=2000&smon=01&sday=01&enen=2012&emon=12&eday=31&fname=



文部科学省「被災地域の学校における授業の実施状況等について(10月時点)」(平成23年12月12日発表)より

【結果概要】
○ 6月時点に比べ、全般的に改善した。特に、体育館や屋外活動の状況に改善がみられる。※なお、6月時点は被災地域の大まかな状況把握の結果であり、未回答項目も多かったことからプレス発表は行っていない。

(各項目の結果)
○ 震災に伴う休校23校⇒15校(▲8校、改善率35%)※福島県浪江町富岡町広野町の学校再開が要因。
○ 他校・他施設を使用している学校
137校⇒106校(▲31校、改善率23%)
○ 仮設校舎を使用している学校41校
○ 1クラス40人を超える学級で授業を実施
83校(うち63校は高等学校)⇒78校(うち60校は高等学校)(▲5校、改善率6%)
○ 1教室で2クラス以上の独立した授業を実施、体育館等を代替使用
96校⇒70校(▲26校、改善率27%)
○ 授業で使用できない特別教室等
(理科室)101校⇒59校(▲42校、改善率42%)
(家庭科室)132校⇒71校(▲61校、改善率46%)
○ 体育館が全く・一部使用できない
408校⇒176校(▲232校、改善率57%)
○ グラウンドが全く・一部使用できない
188校⇒143校(▲45校、改善率24%)
○ 屋外活動の状況
(全く実施していない)94校⇒6校(▲88校、改善率94%)
(一部制限して実施)456校⇒399校(▲57校、改善率13%)
○ 通常の時数を減じて授業を実施
17校⇒9校(▲8校、改善率47%)
○ 通常通りの学校給食の実施
1900校(全体の95%)。未定(簡易給食含む)は103校。

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/12/__icsFiles/afieldfile/2011/12/21/1314457_1.pdf


文部科学省東日本大震災により被災した幼児児童生徒の学校における受入れ状況について(平成24年5月1日現在)」(平成24年6月29日発表)より

各国立大学附属学校、各都道府県・指定都市教育委員会、各私立学校に対し、平成24年5月1日現在で、被災幼児児童生徒の学校における受入れ状況を調査したもの。
(1) 震災により、震災前の学校と別の学校において受け入れた幼児児童生徒の数は25,516人(同一県内での受入れ数を含む)
(2) (1)のうち、岩手、宮城、福島の3県の幼児児童生徒で、他の都道府県の学校において受け入れた数は14,263人

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/24/06/__icsFiles/afieldfile/2012/06/29/1323059_1.pdf




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