原子力防災訓練のあり方 <1>

 1999年に死者2人が出た東海村臨界事故を受けて制定された原子力災害対策特別措置法。同法に基づいて行われる原子力防災訓練についての情報です。国の防災指針が定まらず、憂慮すべきことに原子力防災訓練もまた、具体化せず議論も進んでいません。
 また原子力規制委員会設置法が可決・成立したのはようやくこの6月20日のことで、原子力規制委員会が発足するのはこの9月になるとのことです。
 

・・・東京電力福島第1原発事故後、初となる国の原子力総合防災訓練について、計画作りを指示された原子力安全基盤機構が「最悪ケースの想定は避ける」として、福島事故で起きた炉心溶融メルトダウン)を除外するなどの方針をまとめていたことが30日、分かった。共同通信が情報公開請求で計画案を入手した。

 「地域住民の不安を増長する」という理由。一方で、福島事故で役立たなかった対応拠点施設(オフサイトセンター)が一定段階から本格的に機能すると想定していた。

 同機構は、新設される原子力規制委員会の事務局の原子力規制庁に統合されるが、危機対応への意識が乏しい姿勢が浮き彫りになり、先行きに不安を感じさせる。

 同機構は、経済産業省原子力安全・保安院の安全規制を実務面で支援している。保安院の指示で2011年度訓練の計画案を作成したが、訓練は結局実施されなかった。

 訓練の考え方をまとめた11年7月14日付の文書では、事故の想定を「福島と同じかそれより速い事象進展」とする一方、「炉心損傷、メルトダウンには至らない(水素爆発は想定しない)」と記載。「電力が実施した緊急安全対策が機能することを示す必要あり」と、福島事故後の対策の有効性をアピールする意図と受け取れる記述もある。放射性物質の放出は地元自治体の意向で「あり」「なし」を検討する。

 国は甘い想定にとらわれ福島事故の対応でさまざまな問題を生じさせたが、11月16日付の文書は訓練の目的を「体制の検証」と限定。「防災指針の改定など、防災体制の変化が予想される状況にあり、(今の体制下での)対応力向上、意識向上を目的とする訓練は困難」とし、訓練を通じて改善しようとする意識の薄さがうかがえる。

 保安院によると、同機構から説明を受けた担当者は「炉心溶融や水素爆発がない想定はあり得ない」と指摘したが、具体的な修正は指示しなかった。

 訓練はその後、具体化せず議論も進んでいない。新規制組織が発足後、内容を検討する見通し。(以下略)

中国新聞(2012年6月30日付)より引用
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201206300126.html


【関連記事】
東京新聞:国の防災訓練 炉心溶融 想定から除外(2012年6月30日 夕刊)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012063002000235.html


・対応拠点施設(オフサイトセンター)とは?
・・・緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)は、原子力災害発生時に避難住民などに対する支援など様々な応急対策の実施や支援に関係する国、地方自治体、放射線医学総合研究所日本原子力研究開発機構などの関係機関及び専門家など様々な関係者が、一堂に会して情報を共有し、指揮の調整を図る拠点となる施設である。
 事故が起こった場合には、オフサイトセンター内に設置される幾つかのグループが、施設の状況、モニタリング情報、医療関係情報、住民の避難・屋内退避状況などを把握し、必要な情報を集め共有する。オフサイトセンターでは、国の原子力災害現地対策本部長が主導的に必要な調整を行い、各グループがとるべき緊急事態応急対策を検討するとともに、周辺住民や報道関係者などに整理された情報を適切に提供する。
オフサイトセンターは、現在全国で21ヵ所(経済産業省19ヵ所、文部科学省6ヵ所。うち、4ヵ所は共管施設)が指定されている・・・

公益財団法人原子力安全技術センター:原子力防災基礎用語集(2008年5月最終改訂版)より引用
http://www.bousai.ne.jp/vis/bousai_kensyu/glossary/ki17.html

・オフサイトセンター設置場所(同センター2008年5月最終改訂版による)
http://www.bousai.ne.jp/vis/bousai_kensyu/glossary/ki17a.html


参考までに原子力災害対策特別措置法を引用しておきます。

原子力災害対策特別措置法(平成十一年十二月十七日法律第百五十六号)
最終改正:平成一八年一二月二二日法律第一一八号
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO156.html 

原子力災害対策特別措置法
(防災訓練に関する国の計画)
十三条  第二十八条第一項の規定により読み替えて適用される災害対策基本法第四十八条第一項 の防災訓練(同項 に規定する災害予防責任者が防災計画又は原子力事業者防災業務計画の定めるところによりそれぞれ行うものを除く。)は、主務大臣が主務省令で定めるところにより作成する計画に基づいて行うものとする。
2  前項の規定により作成する計画は、防災訓練の実施のための事項であって次に掲げるものを含むものとする。
一  原子力緊急事態の想定に関すること。
二  第十条、第十五条及び第二十三条の規定の運用に関すること。
三  前二号に掲げるもののほか、原子力災害予防対策の実施を図るため必要な事項

災害対策基本法第四十八条第一項
(防災訓練義務)
第四十八条  災害予防責任者は、法令又は防災計画の定めるところにより、それぞれ又は他の災害予防責任者と共同して、防災訓練を行なわなければならない。
2  都道府県公安委員会は、前項の防災訓練の効果的な実施を図るため特に必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、当該防災訓練の実施に必要な限度で、区域又は道路の区間を指定して、歩行者又は車両の道路における通行を禁止し、又は制限することができる。
3  災害予防責任者の属する機関の職員その他の従業員又は災害予防責任者の使用人その他の従業者は、防災計画及び災害予防責任者の定めるところにより、第一項の防災訓練に参加しなければならない。
4  災害予防責任者は、第一項の防災訓練を行おうとするときは、住民その他関係のある公私の団体に協力を求めることができる。

・第四十八条第一項の読み替え(原子力災害対策特別措置法 第二十八条第一項の規定)
災害予防責任者→災害予防責任者(原子力事業者を含む。)
防災計画→防災計画若しくは原子力事業者防災業務計画(原子力災害対策特別措置法第七条第一項の規定による原子力事業者防災業務計画をいう。第三項において同じ。)



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