・・・高校の合格発表、選抜大会の球音、彼岸の中日、そして日差しの強さ。厳しい冬の今年ではあるが、春の足音が確実に響いてきた。
 浜ではワカメの水揚げが始まり、磯の香りが広がっていた。心踊る思いで漁港の空気を胸一杯に吸い込んだ。しかし、ボイルする釜の音も立ち上がる蒸気もない。全てが流されて、原藻を出荷するのである。
 これまでの春の浜の賑わいとは違った情景に「震災1年」の現実を感じた。彼岸の中日、お墓に詣でる人にも例年と違う情景があったように見えた。黒も喪服を身に着けた人が多かったように思う。一周忌法要の仏さんが多かったためであろう。
 暑さ寒さも彼岸までと言われる。日差しの力は確実に強くなってきた。時々、降ってくる春雪も瞬く間に姿を消してしまう。春が来た。
 去年の春は極限の状態で迎え、送った。桜さえもいつ咲いて、いつ散ったかも定かではない。震災から1年、多くは仮設住宅とはいえ、屋根の下に自分の寝場所が定まった。少しずつではあるが近隣のつながりも生まれてきた。今年こそ春の花を愛でる心を持てるような気がする。
 あと一月もすれば釜石にも桜がほころぶ季節になるだろう。近所の人を誘って花見をしよう。手作りの弁当で、近場の一本桜でも良いではないか。絆の結ばれた仲間と「残された命」に感謝しながら花を愛で、絆をより深くしてほしい。あの厳しい自然が、うららかな春を恵んでくれたのだから。・・・

中川淳 元平田町内会長/釜石市大町市営住宅

復興釜石新聞「足音」(2012年3月25日付)より引用



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