絆 〜 結ぶということ

陸前高田市に派遣されている方々(現地本部事務局・市民環境課・長寿社会課・農林課・健康推進課・社会福祉課・水道事業運営の担当・消防局の担当の方々)が、それぞれの視点から以下にレポートを掲載しています。

陸前高田市リポート -名古屋市奮闘中-
http://www.city.nagoya.jp/somu/page/0000024176.html

今日はそこからひとつ、昨年12月15日のレポートに「絆」について考えさせられるものがありましたので、一部引用したいとおもいます。

・・・以下引用・・・

寒さのせいもありますが、ボランティア参加者が激減しているのは深刻な問題です。
 そんな状況の中で、日々窓口にお出でになるお客様から、「本音」がちらほら聞こえるようになってきました。
 先日も介護保険申請に見えた方が「私たちは全然(心の傷が)癒えていないですよ。3月11日前はこんなにイラつくことはなかったのですが今は何かというとすぐにカッとします。自分で自分がどうにもならんのです」と苦笑交じりに話していました。
 「心のケアチーム」は機能しています。確かに機能していますが、漏れてしまう人たちも大勢います。
 今までは問題のある人の「掘り起し」をメインにしてきましたが、今後は「自発的に悩みを相談する人の声」に素早く対応できる体制、人材も必要になってきます。
 行政だけではとても間に合わないでしょう。この分野にボランティアを積極的に導入、活用する必要があります。例えば電話相談なら財政援助さえあれば、たとえ海外からでも被災者支援ができます。国内ならもちろんOKです。
 (誰に悩みを打ち分けていいのかわからない)と悩んでいる一見問題のない人が、年齢を問わず存在することは、こちらに居る派遣職員なら誰でも感じていることです。
 そういう人たちの「魂のうめき」を受け止める体制作りを急ぐ必要があると信じます。素早く、きめ細やかな対応が今すぐにも必要です。
 また、支援する側と、被災者の「心のズレ」もまた別な意味で大きな問題です。
 今年の漢字に「絆」が選ばれましたが、もうちょっと、被災地にやさしい言葉が選ばれても良かったと思います。
 一方的な押しつけの絆はたとえ善意から発したものだとしても、決して良い結果を生まないでしょう。
 あなたはどう思われますか。

・・・引用おわり・・・


広辞苑によれば「絆」とは「(1)馬・犬・鷹(たか)など、動物をつなぎとめる綱(2)断つにしのびない恩愛。離れがたい情実。ほだし。係累。繋縛(けいばく)」のこと。

語義をみますと、この言葉には、つなぎとめるという要素と、離れがたいという相反する要素が、同時に共存しています。そしておそらくつなぎ止める力が強すぎてしまうとき、とくに小さな社会では、つながっている故の苦しさも感じることもあるでしょう。逆に大都市では、誰ともつながることもなく、ふわりふわりと浮遊するばかりで、自分がどこにいるのか、その実感を失うことも多々あるでしょう。

では、そもそも「つなぐ」ということはどういうことなのでしょう?
私に浮かんだのは、絆という語にある「糸」のイメージでした。二つのものを「つなぐ」ためには糸をそれぞれの場所に「結ぶ」ことからはじまります。
どこに結ぶのか、どのような強さで結べばいいのか。そんなことを考えながら、私たちは糸を結び、その糸が結ばれつづけることによって絆というつながりになる。

ですから、絆を単なる名詞としてとらえるのではなく、「結ぶという行為」そして「結ばれているという実感」、このふたつが時間の流れの中で「絆」として育まれてゆく、そうとらえるほうがより的確なのではないかと思います。
最初から「絆」と刻印された「糸」がどこかで売っているわけではありませんからね!
出会い、笑い、悲しみ、ともに時間を過ごす、そうした中で糸を結んだり、結ばれたりしながら、その結果「つながっている」という実感が徐々に得られていくのではないでしょうか?

震災が起こったとき、誰もが大切な家族や友人、恋人のことを思ったのは、「結ばれている」という実感がおおきく揺らいだからだと思います。電話をかけたり、直接安否を確認したりした理由の一つは、「結ばれている」という感覚をいちはやく確実なものにしたかったからでしょう。ああこの糸の先はきちんとつながっているのだ、つながっている先の人は確かに立っているのだ、そんなふうに「結ばれている」ということが確認できれば、そこにある種の安堵も訪れる。

いっぽう、近年、フェイスブックなどのSNSの発達により、その世界においては「結ぶという行為そのもの」が簡単なものになりました。結ぶための様々な手続きが、簡「略」化されたと言ってもいい。
「どのように結ぶのか」ということをあまり考えなくてもいいようになりました。その手軽さゆえに、SNSは地球の裏側の人と瞬時にコミュニケーションを始められるなど、多くの可能性を秘めています。反面、その結びつきを断つ心理的負担も軽くなり、それゆえに「つながっている」感覚やその意義そのものが変質しつつある、という側面もあると思います。



さて、震災によって、ある日突然、多くの方の結ばれていた糸が断ち切られてしまった。
家族や地域、様々なレベルで、ちょうど網が切られるように、いくつもの糸が断ち切られてしまった。糸の先はぷっつりと切れたまま宙ぶらりんになっている。糸が切れた痛みがそこにある。

上の文章にある「魂のうめき」から感じさせられたもののひとつがそのことでした。誰に悩みを打ち分けていいのかわからない−それは普段打ち明けていた相手との糸が断ち切られてしまっていることも一因としてあるのかもしれません。

また「一方的な押しつけの絆はたとえ善意から発したものだとしても、決して良い結果を生まないでしょう」と上の文章にあります。
もし、糸が切れたままであること、その痛みをすこしも顧みずに、ただ新しい糸をそこに結ぼうとするのなら、必ずしもよい結果になるわけではないのかもしれません。このとき私たちはつながることばかりに囚われすぎているのかもしれません。

結ぶという行為は、本来、たくさんのことを考えながら成り立つものです。
どこに結ぶのか、どのような強さで結べばいいのか、結ぶ先は傾いたりぐらぐらしていないか、結ぶこちら側はしっかりたっているのか、あるいは糸を引っ張ってみたり緩めてみたり、こんがらがっていないか確かめてみたり。
そういうことをあれやこれや試しながら、はじめて糸は結ばれ、二つのものがつながってゆく。

「何かをしたい」そう思う心は、もうそこにある、それだけで素敵なことだと思います。
人と人とを結ぶ真新しいその「糸」が、やがて「絆」へと育まれてゆく、その種はもうそこにまかれているのだと思います。

それならば、「結ぶ」ことの意味をすこし考えてみるのもわるくない。
もう一度結ぶ相手のことを、そして結ぼうとする自分のことを見つめながら、その糸を結んでみる。
結ぶ先は傾いたりぐらぐらしていないか、結ぶこちら側はしっかりたっているか。
お互い糸をほんのすこし引っ張ってみたり緩めてみたりするのもいい。
そんな心遣いができる余裕も、「心のズレ」を埋めるちょっとしたきっかけになることでしょう。



「心のズレ」は、ほんとうは震災に限らず、私たちの日常自体に深く潜んでいるのかもしれません。
それならば、「結ぶ」ことについて考えを巡らせることは、日常における「心のズレ」をも、もう一度うまくつなぎ直すヒントなのかもしれません。
つながるためにスピードやタイミングを競ってばかりでは、へとへとになってしまう。
人と人との「つながり」を測る尺度は、オンとオフを示すためだけにスクリーンに点灯するスイッチボタンではないのですから。



「やあ、元気かい?」

街を歩きながら、軽く会釈を交わす。市場へ出かけて、挨拶をする。
駅で階段を上るお年寄りに声をかけてみる。あるいはどこかで、ちょっとした世間話をする。
花屋で、たばこ屋で、なじみの酒場のカウンターで。

いろいろな形のいろいろなつながり。
「結ぶ」ことは、ほんの少し相手を見つめる余裕をもちあわせていれば、ほんとうはそれほど難しいことではないのかもしれません。




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