気仙広域連合 復興への全体構想 <3>

東海新報に掲載されました気仙広域連合(岩手県大船渡市・陸前高田市気仙郡住田町の首長−戸田市長(大船渡市)、戸羽市長(陸前高田市)、多田町長(住田町)−による座談会の記事です。長い記事ではありますが、震災復興の全体構想・問題点が浮かび上がってきますので6回に分けて引用します。

第3回は「被災者の生活基盤となる住宅の再建」についてです。地域の方々と行政の連携についての課題、また実際に取り組んでわかる駐車場の確保のような課題が挙がっています。また戸羽市長の「国は『こういうことで考えている』といったある程度の方針というものを正式なルートで被災自治体に伝えてしかるべき」という発言や、参議院国土交通委員会が派遣した議員の発言は、現場の認識と現場の実情から乖離している国の認識とのギャップを感じさせます(*参議院HPによれば参議院国土交通委員会の岩手への委員派遣は2011年11月10日)。
復興交付金」「効果促進事業」「防災集団移転促進事業」「災害公営住宅整備事業」などについては、下の説明をご覧ください。


・・・以下引用・・・

 ―震災復興に向け、被災者の生活基盤となる住宅の再建が喫緊の課題となっている。高台移転への対応を含め、今後どのような取り組みを。

 戸田 被災者の住宅再建は復興計画の中の大きな柱の一つだ。市内には防災集団移転促進事業による移転を検討している地域が二十数カ所ぐらいあると思うが、合意に達するまでにそれぞれ10回ぐらいは協議が必要だろう。
 高台への集団移転は行政だけで成し遂げられるものではなく、各地域の方々と行政が連携してやっていく体制が組めればいい。そういった連携体制が今、徐々にできつつあるが、高台への集団移転について、地域の組織がどこまで踏み込んでいけるかというと地域によって濃淡がある。そのへんは行政がカバーしながらやっていきたい。
 戸羽 高台移転が基本だが、津波を恐れるがあまり、まちの形成が成り立っていかないようなことでは本末転倒だ。そのへんはしっかり住民の方々の意向とわれわれの考えをすり合わせていかなければならない。
 ただ、住民の方々も100人いれば100人の意見がある。元のところに住みたいという方もいれば、津波は怖いからもう元の場所は嫌だという方もいる。そうした中で、今、市が考えているのは個別に相談窓口を作ったり、地域に出かけるなどして世帯世帯の希望をしっかり聞くこと。時間はかかっても、そうせざるを得ないと思っている。
 災害公営住宅については、被災前の高齢化率なども加味して1000世帯分ぐらいは必要だろうと考えている。土地がないので公営住宅は上に高くということになり、今は8階建てにしようかというような話になっている。あるエリアに300世帯くらいが入る建物を計画しているが、問題は駐車場だ。今は一家に2台という時代。例えば300世帯が入る住宅だと600台分もの駐車場が必要になる。
 こういう課題は現実に設計をしてみたときに初めて分かる。今回の復興交付金の中の効果促進事業で、立体駐車場をつくることができるのか。いろいろと知恵を絞り、国と交渉していかなければならない。

 ―住宅再建や高台移転をめぐっては、津波の被害を受けた土地の買い上げに被災者の関心が高い。行政の基本的な対応はどうなる。

 戸田 防災集団移転促進事業の新しい制度では、被災した土地の買い上げにかかる自治体の負担がゼロになった。買い上げ費用は国が全額負担することになり、第3次補正予算にもその財源が計上された。被災した土地については、復興後の状況を見据えた鑑定評価などを経た後に価格を定め、買い上げることになる。
 住宅再建に関しては国から最大300万円の支援金の支給がある。そういった制度も利用してほしい。防災集団移転促進事業で移転できない人には災害公営住宅があり、自力再建する人についてもさまざまなオプションが考えられる。いろいろ検討したうえで、自分に合ったものを選択してほしい。
 戸羽 参院国土交通委員会の先生方に来ていただいた時に土地の買い上げについて聞いた。市内の路線価が震災前の3割に下落したが「3割じゃとてもじゃありませんよ」と話したら、ベテランの先生に「あれは税金を払わなくていいようにしているんだ。買い取るときはもっと高いはずだ」と言われた。それで、「いや、高いはずだよじゃなく、だいたいこれぐらいを見ているとか、具体的なものはないんですか」と尋ねたら、「そこまではわからん」と。
 1000万円の土地が5割下がって500万円と言われれば、その500万円をもとに次を考えられる。しかし、それが分からないと被災者の人生設計が立たない。頑張って戸建てにしようか、どこかのアパートを探そうか、災害公営住宅に入ろうかということは、その価格がひとつのベースになっているわけだから。
 その後、「被災前の6〜8割」という報道もあったが、そういう情報をなんで被災自治体が報道で知ることになるのか。国は「こういうことで考えている」といったある程度の方針というものを正式なルートで被災自治体に伝えてしかるべきではないか。

 ―住田の町営住宅はほかにはない素晴らしい住宅だと思うが、あれを同じ規格で安く提供する方法はないか。

 多田 平屋建ては3LDKで1棟1300万円ぐらいだが、やり方でもう少しは落とせると思う。ただ、いろいろな住宅メーカーが今、価格競争でこの地域に入ろうとしている中で、本当に満足のいく家を手に入れられるかどうかが問題。安く造りたいというのはその通りだが、安ければ安いなりのものになるのではないか、と心配している。

・・・次回に続きます・・・

東海新報(2012年1月1日付)より引用
http://www.tohkaishimpo.com/scripts/index_main.cgi?mode=kiji_zoom&cd=nws7263




復興交付金とは
以下は復興対策本部事務局による説明です。

目的:復興交付金の創設により、被災地方公共団体が自らの復興プランの下に進める地域づくりを支援し、復興を加速させる。
対象:著しい被害を受けた地域の復興地域づくりに必要となる事業
(注)東日本大震災財特法の特定被災区域である市町村等及び当該市町村において道県が行う上記の事業
規模:国費1兆5,612億円(事業費1兆9,307億円 ) ※事業費は国費+地方負担

東日本大震災復興対策本部事務局「東日本大震災復興特別区域法資料」(2011年12月)より引用
http://www.cao.go.jp/sasshin/kisei-seido/meeting/2011/wg1/111213/item7_1.pdf



・効果促進事業とは
以下の資料によれば、「基幹事業に関連して自主的かつ主体的に実施する事業」のこと。
まず基幹事業に当たるものは「都市公園整備事業」「防災集団移転促進事業」「都市防災推進事業」「市街地再開発事業」です。
これらの「基幹事業」に「自主的かつ主体的に実施する事業」が「効果促進事業」となります。
該当資料には具体例として「災害発生時の避難路を整備」「低地の市街地とを結ぶバス路線整備」「ハザードマップを作成」「まちづくりワークショップを開催」などが挙げられています。

東日本大震災復興対策本部事務局「東日本大震災復興特別区域法資料」(2011年12月)
http://www.cao.go.jp/sasshin/kisei-seido/meeting/2011/wg1/111213/item7_1.pdf



・防災集団移転促進事業とは
以下は国土交通省による概要の説明です。

○事業計画の策定等
市町村は、移転促進区域の設定、住宅団地の整備、移転者に対する助成等について、国土交通大臣に協議し、その同意を得て、集団移転促進事業計画を定めます。

移転促進区域:
災害が発生した地域又は災害危険区域(建築基準法第39条)のうち、住民の生命、身体及び財産を災害から保護するため住居の集団的移転を促進することが適当であると認められる区域です。
住宅団地の規模:
10戸以上(移転しようとする住居の数が20戸をこえる場合には、その半数以上の戸数)の規模であることが必要です。
(※筆者註:東日本大震災による被害を受けた地域については、特例として移転先の住宅団地の最低規模を現行の10戸以上から5戸以上に緩和されています)

○事業主体
市町村(特別な場合は都道府県)

○国の補助
以下の経費について、事業主体に対して補助を行います(補助率:3/4)

1)住宅団地の用地取得造成
2)移転者の住宅建設・土地購入に対する補助(借入金の利子相当額)
3)住宅団地の公共施設の整備
4)移転促進区域内の農地等の買い取り
5)住宅団地内の共同作業所等
6)移転者の住居の移転に対する補助
○市町村の配慮
市町村は、事業計画の策定に当たり、1)移転促進区域内の住民の意向を尊重、2)移転促進区域内にあるすべての住居が移転されることとなるように配慮しなければなりません。

国土交通省「防災集団移転促進事業」より抜粋
http://www.mlit.go.jp/crd/city/sigaiti/tobou/g7_1.html



・大船渡市の災害公営住宅整備事業
http://www.city.ofunato.iwate.jp/www/contents/1305074403730/files/5jigyo_shuyo_0829.pdf

宮城県の災害公営住宅の整備
http://www.pref.miyagi.jp/juutaku/saigaijouhou/20111101siryou.pdf

・住田町の町営住宅については一例として移住支援情報(概要版)をご参照ください。
http://www.town.sumita.iwate.jp/kurashi/ijyuu/ijyuupanf.pdf








【サイト内関連記事】
・気仙広域連合 復興への全体構想 <2>
http://d.hatena.ne.jp/oretachinonihon-2011/20120103/1325546890

・気仙広域連合 復興への全体構想 <1>
http://d.hatena.ne.jp/oretachinonihon-2011/20120102/1325521464