気仙広域連合 復興への全体構想 <5>

東海新報に掲載されました気仙広域連合(岩手県大船渡市・陸前高田市気仙郡住田町の首長−戸田市長(大船渡市)、戸羽市長(陸前高田市)、多田町長(住田町)−による座談会の記事です。長い記事ではありますが、震災復興の全体構想・問題点が浮かび上がってきますので6回に分けて引用します。

第5回は「新たな産業の創出、既存産業の振興など将来の展望」についてです。人口流出、第一次産業の後継者育成の問題、気仙広域全体として企業誘致を推進することなどが課題として挙げられています。また気仙広域連合は2011年12月22日に環境未来都市に指定されました。


・・・以下引用・・・

 ―震災後、気仙地区の人口は4500人も減っている。これに歯止めを掛けるには雇用の場の確保が必要だ。新たな産業の創出、既存産業の振興など将来の展望はどうか。

 戸田 国の進んだ科学技術を取り入れて、社会の仕組みを未来型に変えていく、われわれの働き方を見直して、収入が増えるような働き方、組織のあり方はないのかを考えていく必要がある。
 そういった中で昨年末、気仙3市町で提案していた環境未来都市構想が国から選定された。この構想が実現すれば、環境に配慮したエネルギーが社会の仕組みとして少しずつ増えていく。復興特区指定という後押しを受け、企業誘致もできていくと思われ、働く場が増えていくものと大いに期待している。

 ―壊滅的な被害を受けた漁業再生にはどう取り組むか。

 戸田 世界三大漁場という豊かな資源を有しているが、1人当たりの漁業者の所得はおおむね300万円。例えばチリとかノルウェーニュージーランドでは600万円、700万円とか1000万円とか、そういう漁業をしている。どこかに改善する余地はないのか、真剣になって考えていく時期に来ていると思う。
 高い収入を得ている国の漁業は若い人たちに人気がある。われわれは今、必死になって漁業を立て直しているが、それが一段落しても後継者がいないという現実にぶつかる。私自身、漁業関係者と十分に意見交換しながら、若い人たちが希望するような、収入が上がるような漁業をやっていくにはどうしたらいいかということを、関係者の知恵をいただきながら一緒に考えていきたいと思っている。

 ―陸前高田の場合はどうか。

 戸羽 この地域はやはり一次産業が大事。専業は限られているが、陸前高田では農業をやっている方もけっこういる。世界的に見ても絶対に食糧が足りなくなるのは目に見えており、東北は食糧供給基地としての役割を果たすことができると思う。
 ではなぜ農業の後継者がいないのかといえば食えないからで、どうやって農業でご飯を食べて行ける形を作っていくかということを真剣に考えていく必要がある。私どもとすれば、出口戦略をしっかりと持ち、どういった農業が生業として成り立つのかということに挑戦していかなければならないと思っている。

 ―陸前高田は水産加工の分野でいろいろ動きがあるようだが。

 戸羽 気仙町長部の湊地区に気仙沼市水産加工業「かわむら」さんが魚類加工の生産機能を集約することになった。津波で被災した別の水産加工会社も同じエリアでやるということで、一大水産加工地域ができるのではないかと期待している。そこができあがってくると、被災者の皆さんにも夢や希望が出てくるのではないか。
 しかし、ただ雇用があればいいというわけではない。それだけが選択肢で本当に若い人たち陸前高田市、気仙に残ってくれるのかということなれば、これはまた違った課題が出てくるだろう。例えば大学や専門学校で勉強したことを生かせる業種。若者たちにとって魅力のある雇用というものも合わせて作っていくために、行政がリーダーシップを発揮しなければならないと思っている。

 ―被災した気仙はある意味で、構造改革を行うチャンスを与えられた。犠牲になった方々が「ああ良かったな」「自分のまちはこんなになったんだな」と思ってくれるようなまちづくりをする必要があると思うが、その点で住田町から提案は。

 多田 気仙は震災前から人口減が進んでいた。こういう被災を受けてまた一から立て直していかなければならない時に、人口がグンと増えるような画期的な政策というのは逆立ちしても難しい。満塁ホームランになるようなものがあるなら、みんなやっているわけで、ひとつひとつ積み上げていくしかない。産業をいかにつくりだしていくか、ということからスタートしていかざるを得ないのではないか。

 ―大船渡市では北日本プライウッドの撤退が決まったが、住田には合板の材料がたくさんある。住田に工場を持ってくることはできないか。

 多田 親会社の方と何度かその話をし、何とか気仙にとどまってくれないかとお願いした。必要な土地はうちの方で用意する準備があるという話まで投げかけたが、だいぶ厳しい話をされている。ただ、木材の納入先である合板工場が気仙からなくなるのは困る。もう少し、親会社の方と話をしていきたい。
 戸羽 これは気仙全体の問題だ。住田町が単独で動くとか、お願いをするとかということでは難しい。もし、そういうお願いをするとか、別の合板の会社を誘致するということで一致すれば、気仙3市町の首長、あるいは市民、町民も含めて活動していかないと。住田町に立地されるとしても、陸前高田、大船渡は応援しますという意気込みが相手に伝わらないと簡単にはいかない。
 多田 実際、世田米下在地区の木工団地で働いている方の約半分は陸前高田や大船渡など町外の方々。どこに立地しようと、気仙全体の雇用を確保するという意味では非常に大きい。

・・・次回に続きます・・・

東海新報(2012年1月1日付)より引用
http://www.tohkaishimpo.com/scripts/index_main.cgi?mode=kiji_zoom&cd=nws7263




【関連記事】
・「気仙3市町と釜石市を指定 政府の環境未来都市構想」(岩手日報:2011年12月22日)
http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20111222_2




【サイト内関連記事】
・気仙広域連合 復興への全体構想 <4>
http://d.hatena.ne.jp/oretachinonihon-2011/20120111

・気仙広域連合 復興への全体構想 <3>
http://d.hatena.ne.jp/oretachinonihon-2011/20120105/

・気仙広域連合 復興への全体構想 <2>
http://d.hatena.ne.jp/oretachinonihon-2011/20120103/

・気仙広域連合 復興への全体構想 <1>
http://d.hatena.ne.jp/oretachinonihon-2011/20120102/

・「人材育成が好循環を生み出す」 〜 震災後の雇用対策の課題
http://d.hatena.ne.jp/oretachinonihon-2011/20111112/1321063700